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公認スポーツファーマシストスキルアップ研修会 2019/11/10
2019/11/10(日)公認スポーツファーマシストスキルアップ研修会が開催された。
午前と午後に分け実施され、おおよそ60名の県内のスポーツファーマシストが鹿児島国体に向け、そのスキルアップを図った。
JADAからの講師陣によるグループワークに加え、岩田先生(県薬健康増進委員会 アンチ・ドーピング担当:鹿児島国体に向けた鹿児島県薬剤師会の取り組みの説明)と私(後述)が情報提供した。
3事例についてグループワークを行ったが、それぞれの課題に対する回答を作成する際の、ちょっとしたポイントへの気づきがあったかが、まさに、今回の研修会のポイント。
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研修会の最後に私から情報センターに寄せられた相談に関して情報提供。
10分の予定が・・・20分くらいしゃべってしまった。
参加された先生方、予定が狂って申しわけのないことでした。
以下、その内容を示します(研修会当日は時間の関係で説明をかなり省略しましたので、その部分を補足しています。また、急いで解説文を作成したため誤字脱字等があるかもしれませんがご容赦を)。
写真は、2019年9月14-16日に開催されたセーリング国体プレ大会スナイプ級 スタート直前の様子です。
私は写真手前側のレース運営艇(スタートアウター)に乗って、競技審判を務めていました。
本日は、情報センターに寄せられたアンチ・ドーピング関連相談などについてお話しします。
情報センターが関与しているアンチ・ドーピング相談経路を示しています。
1)競技者がかかりつけの病院・薬局に相談し、そこから情報センターに相談が寄せられる場合
2)競技者等から情報センターに直接相談が寄せられる場合
3)国体参加選手を対象とした使用医薬品調査(体育協会 医・科学委員会)があります。
現時点では、体育協会の実施する使用医薬品調査が相談の大半を占めます。
体育協会医・科学委員会経由の相談に対する回答は恵谷が、鹿児島県薬剤師会アンチ・ドーピングホットラインに寄せられた相談に対しては惠谷・亀之園が行っています。
その場で解決できない場合は、日本薬剤師会(日薬)、日本アンチドーピング機構(JADA)に判断を仰ぎます。
相談から得られた情報などを含め必要と考えられる情報に関しては、競技力向上ステップアップ研修会(教育員会 保健体育課)(恵谷)を通じ、競技団体、中・高等学校の指導者にフィードバックし啓発を行っています。
また、鹿児島県スポーツファーマシスト・メーリングリスト(スポーツファーマシスト限定のため一般会員には丈夫お公開していない)、鹿児島県薬剤師会会報・ホームページを通じて、県内のスポーツファーマシストならびに鹿児島県薬剤師会会員に情報提供しています(後述)。
2019年10月31日までに受けた相談件数です。
相談者数と1品目1件とした相談件数を示しています。
相談者の大半は体育協会経由(国体大会前使用医薬品等調査)になります。
医薬品については、医療用医薬品が107件、一般用医薬品が48件、食品については、サプリメントが166件でした。
国体参加団体毎の国体前医薬品等使用調査の相談状況をグラフに示しました。
2019年 夏の国体に出場予定の33競技団体、679名の競技者に対して、医薬品等使用調査票を体育協会から配布しました。
各競技団体とも、おおむね2~3割程度が医薬品等を使用していました(グラフ中オレンジ色部分)。
競技団体に対する研修会などの際の感じでは、実際には、もう少し医薬品やサプリメント等を使用している者がいるのではないかと思われます・・・
相談者を成年、少年に区分した場合の医療用医薬品、一般用医薬品、サプリメント等の相談件数内訳です。
医薬品に関する相談に対して回答する場合に参考とする資料としては次のものがあります。
1)WADA禁止表(および JADA日本語版:日本語版と英語版に相違がある場合は、英語版が優先される)・・・原則毎年1回改訂され、1月1日より発効
2)TUE申請(JADAホームページにTUE申請に関する情報が掲載されている:https://www.playtruejapan.org/medical-staff/tue_top.html)
3)global DRO (アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、スイス、日本が運営:https://www.globaldro.com/home/index)
4)薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック(発行時期が、禁止表発効から半年ほど経ってから ⇒ 最新の禁止表と内容が異なっている場合もあるので注意)
そのほか、実際に調べる際には、添付文書、インタビューフォーム、海外医薬品情報などを参考にすることもあります。
いずれの場合も、最新の資料を用いることが必須です。
情報提供の際には、薬歴等に、相談および回答の内容に加えて、参考にした資料(作成年月日)などについてもしっかりと記録しておく(薬剤師の身を守るため、競技者の身を守るため)必要があります。
2019年の相談事例の中には、WADA禁止表上で青文字で示した区分に該当するものが何例かありました。
相談が寄せられた医薬品の使用可否等を示しました。
S3、S9などの記号は、WADA禁止表(ひとつ前のスライド)の区分を示しています。
多くの場合、使用可のですが、以下に示すように注意が必要なものがありました。
医療用医薬品
1)用量注意(ナファゾリン等使用可能であるが用法用量に注意が必要なもの)2件
2)TUE申請が必要なもの 4件
3)競技会時使用禁止 2件
4)いかなる場合も使用禁止 1件
5)動植物由来のため判定不能 8件(漢方薬、ミティキュア、シダキュアなど)
一般用医薬品
1)用量注意 3件
2)競技会時禁止 2件
3)動植物由来のため判定不能 2件
医薬部外品
1)カフェイン含有(カフェインは監視物質で、当該年での禁止物質ではないため使用は禁止されない。過量使用による健康被害が懸念されるため注意喚起)
薬剤師としては、調剤の際、処方監査、処方提案、服薬指導等を通じて競技者、あるいは、支援者等に啓発などを行う必要があります。
体育協会から競技団体を通じてそれぞれの競技者に情報をフィードバックし、注意が必要な事例に関してはその後の対応について報告してもらいました。
具体的の事例と対処について示しています。
禁止物質に該当する医薬品を使用するか、しないかの判断責任は競技者自身にあります。
病気の状態に応じて医師、支援者などと話し合い、決定することになります。
疾病の治療に不可欠である場合は、治療的使用特例(TUE)申請が必要です。
なお、TUE申請したからといって、全てが認められるとは限りません。
TUE申請に関しては、JADAホームページに申請に関する情報や必要書類が掲載されているので、それを参照して競技者が医師に申請書の作成を依頼することになります。
但し、競技者から医師に書類作成を依頼する場合、薬剤師として競技者や医師に情報提供するなどし、書類がスムーズに作成されるように支援するなどの対応が求められます。
なお、可能であれば普段から禁止物質を含まない医薬品の使用を考慮すべきであり、薬剤師は、その点についても留意した調剤と情報提供が必要です。
監視プログラムのカフェインについては、その年の禁止物質ではありませんが、過量使用により健康被害が起こる可能性があるため、注意を喚起するなどの必要な対応がのぞまれます。
体育協会の国体前医薬品等使用調査を実施の目的は、違反者を出さないことですが、それ以上に啓発することも目的の一つです。
調査のやり取りの際に、競技者、指導者等が普段何気なく使用している医薬品やサプリメントにも危険性が潜んでいることを再認識してもらえたら、事業は成功です。
サプリメントに係る相談を受けた際に参考とする資料の例をスライドに示しています。
サプリメントは食品なので、薬剤師が、そこまで対応する必要があるかといった疑問もあります。
しかし、栄養学的な判断を含めて相談対応できるように準備しておく必要があります。
サプリメントを使用する場合は、スポーツ栄養学的な評価を行い、必要なものを利用するようにするのが理想です。
しかし、現状は、アスリートが自己判断で安易に使用したり、指導者等が安易使用を勧めているケースが多くをあるようです。
サプリメントの使用を考える場合、少なくとも第三者認証をとっている製品から選ぶようにするなどの注意が必要です。
「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」に合致する、第三者認定制度としては、NSF、BSCG、informed sport、informed choiceなどがあります。
なお、それぞれの認証制度の特徴などについて、薬剤師は知っておく必要があります。
アスリートに情報提供する際は、第三者による認証をとっているからと言って100%安全とは決して言えないことを含めて、サプリメントの正しい使用方法などについて啓発しなくてはなりません。
2019年のサプリメント等に関する相談事例の第三者認証取得の状況を示しました。
第三者認定を受けていない商品、品名等不正確で判定不能な事例が多くあり、サプリメントに関するアンチ・ドーピングの意識がまだまだ十分ではないことが窺えます。
商品選択に関しては、CMあるいは知り合いなどの勧めに対する情報をどのように評価するかも含め、競技者、指導者に対して啓発していく必要があります。
サプリメント等に関する相談事例について、第三者認証等の内訳を示しています。
昨年度までは、どうしてもサプリメントを使用する必要がある場合は、JADA認定商品の中から選択を考えるといった情報提供をすることが可能でした。
しかし、2020年3月31日をもってJADA認定商品は完全に効力を失います。
これまで、JADA認定商品を利用していた人が、今後、他の第三者認定製品に流れて行くことが考えられます。
その際、それらの認証が、少なくとも「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」の要件を満たしているかを確認する必要があります。
それぞれの認証プログラムの特徴について、十分に把握したうえで、アスリートの責任において商品を選択することになります。
繰り返しになりますが、認証を受けているからと言って100%安全ではありません。
アメリカの411サイトには、サプリメントを選ぶ際のチェックリストが公開されています。
それを利用して、サプリメントの使用を評価するなど、アスリート自身が身を守る術についても、薬剤師として情報提供することが必要になります。
If there is no clear nutritional benefit, then why take the risk ?
health professional に相談を・・・
薬剤師は、health professional の一つです。
初めに述べたように、相談事例の内、参考になりそうなものについては、使用の可否を判断する際の考え方などを含めて、薬剤師会の会員を対象として、薬剤師会ホームページ情報センターブログで情報提供しています。
また、薬剤師会の会員等を対象とした薬剤師会の会報でも情報公開しています。
時に、記事においてglobal DROの問題点などとして、JADAなどの批判もしています。
この点について、少し解説します。
基本的に、アンチ・ドーピングに関しては、WADAが示す禁止表が世界共通のルールになっています。
それ故、global DROに関しても、各国のサイトに掲載された情報に相違があってはならないはずです。
ところが、実際には、相違が認められます。
ミティキュアに関する相談が寄せられた際、日本のサイトには情報掲載がありませんでした。
ミティキュアのインタビューフォームには、海外の販売状況が記載されており、それを参考にカナダのglobal DROサイトで検索(海外での販売名 ACARIZAX)したところ、使用可となっていました。
世界共通のルールとの考え方の下、カナダの情報によると使用可能であるため、使用可能と考えられると相談者には一旦回答しました。
それでも少し後味が悪かったので、日薬にJADAの解釈の仕方について確認したところ、JADAとしては使用可能と判断していないとが判明し、回答を訂正した事例を今年経験しました。
結果として、相談者に不安を与えることになってしまい、反省しているところです。
2019/11/10に鹿児島で開催された、スポーツファーマシストスキルアップ講習会にて、JADAの担当者に確認したところ、その件については、色々なところから指摘があり、JADAとして情報の統一化を図るように申し入れたとの情報を得ました(変更されるかどうかについては未定)。
さらに、鹿児島県内のスポーツファーマシスト・メーリングリストにおいても情報公開しています。
なお、スポーツファーマシスト・メーリングリストはスポーツファーマシストのみが対象となっており、一般会員には公開されていません。
スライドはエフィエントの使用可否を問うものですが、相談を受けた時点では、日本版global DROに情報の掲載がありませんでした。
従って、他国版global DROを回答の際には使用しました。
先ほどミキティアの事例とは異なり、医薬品のため成分が特定できますので、それが、禁止物質に該当しないことが判明すれば、使用の可否を判断することができます。
JADAによると、日本版global DROは2020東京オリンピックに向けて、掲載情報の更新が急ピッチで進められているそうです。
相談を通じて感じた問題点の一部を示します。
1)ドーピング検査がある大会に、初めて出場することになった競技者について、これまでに使用していた医薬品が禁止物質であることが判明し、競技者自身、家族が大変動揺した事例を経験した。⇒ 有望なジュニア競技者に対しては、かなり早い段階から医療的なフォロー(ドーピング違反とならない医薬品の選択など)を実施する必要があります。
2)貧血の検査等を十分行わずに、医療用医薬品をサプリメントとしてチーム内で使用しているような事例も過去にあった。また本年も貧血に関する評価が不十分なままのサプリメントなどの使用事例が散見された。⇒ スポーツ貧血やその予防法・対応などについて啓発する必要があります。
3)サプリメントを利用すれば強くなるとの誤った認識が蔓延している事例が見受けられた。 ⇒ スポーツ栄養学的な視点にたった栄養評価や、サプリメントの適正使用等について、スポーツ栄養士などと協力して啓発する必要があります。
競技者、その支援者の無知に加え、処方医の無知、薬剤師の無知などが重なって、様々な問題が発生します。
少なくとも医師、薬剤師は、アンチ・ドーピングに関する基本的な知識を身に着け、競技者に配慮した診療、調剤、情報提供など(普段から禁止物質等に該当しない医薬品の使用の考慮。正確な情報の提供とフォローアップ)に努める必要があります。
スライドには示していませんが、体育協会を通じた使用医薬品検査は、管轄が異なるためパラアスリートには実施されていません。
オリンピック、パラリンピック、国体に続いて開催されるパラアスリートの全国大会などのことを考えると、パラアスリートのサポートにいかに取り組むかが今後の課題となります。
医薬品であれば禁止物質に該当しなければ、サプリメントであれば第三者認証をとっていれば、安全か?
以下に、最近発生した事例について示し、少し考えてみたいと思います。
DNSのアイアンSPがinformed choice認定を受けようとしたところ、製品から禁止物質が検出された事例です。
DNSの企業姿勢として、競技者が安心して使用できる製品を提供しようとしています。
しかし、禁止物質がコンタミネーションするような製造ライン(おそらく禁止物質が配合された製品を製造しているラインと同じ)を利用している点は看過できません。
『「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」が定める製品分析上の検出限界(100 ng/g)以下、または検出限界程度であるため、ドーピング検査で陽性反応が出る可能性は極めて低いと考えている』との考え方も、個人的には看過できないと考えています。
Informed choice認定習得のための製造施設等の評価は、現地立ち入り調査ではなく、書類審査で済まされることもあるため、上記のような事態も起こりえます。
ドーピング違反検査機関に求められている検出限界は、今回検出された違反物質に関しては、「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」が定める製品分析上の検出限界(100 ng/g)よりも厳しくなっています。
閾値が設定されていないものに関しては、微量であっても検出されれば違反と判断されることになります。
第三者認証を受けているからと言って、必ずしもドーピング検査的に安全とは言えません。
この点を、競技者が十分に理解しているとは言い難い現況です。
薬剤師による啓発が必要でということになるでしょうか・・・
同様にコンタミネーションの事例です。
しかし、医療用医薬品に係る事例であり、衝撃的でした。
調査結果の説明等は、当該医薬品のメーカー等に掲載されています(https://www.sawai.co.jp/release_list/20190419/671/)。
検出された禁止物質は、Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム、 PIC/S) GMP ガイドラインに定める基準以下だったいうことですが、ドーピング検査においてそれが陽性として検出されたことになります。
当事者である競技者が、精神的なダメージ等に対する損害賠償を求め提訴するに至っています。
メーカーは、製造ラインの工程をより厳格に管理し、混入を防ぐとの方向性を示しています。
医薬品の製造に係る残留基準量とWADA技術文書における閾値が設定されていない物質に対する検出限界性能を比較すると、後者の方がより少ない量が設定されています。
WADAが検査機関に求める検出限界能力は、オリンピックプール(2500 m3)にティースプーン1杯程度でも混入すれば分かってしまうレベルです。
こうなってくると、薬局や病院での散剤や水剤の調剤時の使用機器の清掃の程度についても、細心の注意を払う必要があることになってきます。
例えば、禁止物質に該当する医薬品の分包調剤をおこなった後に、競技者の処方薬を調剤するような場合、分包機を念入り掃除した上で調剤するなどの配慮を欠くことができません。
そうではなくても、分包機は調剤の都度にきれいに掃除しておく必要がありますが・・・
現在、薬剤師による調剤や情報提供に関するドーピング違反事例(訴訟など)は、報告されていません。
しかし今後起こりえないとは断言できません。
日薬がアンチ・ドーピング活動保険を用意していますので紹介しておきます。
年間保険料は2700円で、損害賠償は1億円まで対応しています。
自衛策の一つとして考えていただければと思います。
記録に残す(相談内容、回答内容、参考にした資料、調剤方法・状況)、薬剤師のためでもあり、競技者のためでもある。